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第2話「恐ろしき黒い噂」

「お前たちはウルフの家畜だ」

マリオは猟銃を持ち、2人ににじり寄ってくる。

 

「私は・・・」

トモタケは冷たい空気に体を震わせた。

 

「どうした?」

マリオはトモタケに問う。

 

トモタケはただただ震えている。

 

「寒いか?」

マリオはそう言うと猟銃の先端を持ち大きく振りかぶる、

次の瞬間、猟銃のグリップの部分がトモタケの目の前まで伸びてきた。

 

「ガン!」

衝撃と共にトモタケの目の前が真っ暗になる・・・

 

 

1時間後・・・

 

トモタケが目を覚ますと暖かい室内の椅子に座っていた。

そしてマリオが四角い机を挟んで目の前の椅子に座っている。

 

「暖かい・・・」

トモタケはそうつぶやくと目の前を見渡す。

 

マリオどころではない。

左にはマーカス、右にはマリオの娘の幼いマリアが座っているではないか。

 

「どうやら・・・」

マリオが口を開く。

 

「お前たちには人の心があるみたいだな」

マリオがそういうとトモタケの目の前を指さす。

 

「お前の分じゃ」

目の前には熱々のスープカレーが置かれている。

 

「なぜです?」

トモタケはマリオのやさしさに疑問を持った。

 

「なぜだと?さっき殴ったお詫びだ」マリオ

 

「我々は貴方の敷地に無断で忍び込んだんですよ?」トモタケ

 

「正直者だな、気に入ったよ」

「お前達はウルフに強要されてやっただけだ」

「そうだろう?」マリオ

 

「・・・」

本心はそうだったが、ウルフは2人にとって育ての親でもある。

素直にウルフの名前を口にするのは躊躇われた。

 

「お前たちをウルフの家畜だと言ったのは比喩ではない」

「このままではいずれ、2人とも殺されるだろう」マリオ

 

!?

そんなはずはない。

仕事さえしっかりやっていれば、少なくともウルフは居場所をくれる。

 

「殺されるとはどういうことだッ!?」

マーカスは怒鳴り声をあげた。

 

「黒い噂がある」

「お前たちはこの世界の理を何も知らない」

「この世には人間を超えた怪物が存在していると・・・」マリオ

 

マリオの話は普通ではなかった。

2人はまるでおとぎ話を聞かされている気分だったが、

2人は外の世界の事をまるで知らない。

 

2人の今までの生活・・・

昼間はウルフの仲間らしき人物に監視されながら、

ぎゅうぎゅう詰めのたこ部屋で他の子供たちと過ごしており、

 

夜になるとウルフの元に連れていかれ、

ウルフの指示に従い仕事をするというものだった。

 

逃げることもできたが、

何の知識もない2人では生きてはいけないだろうと思っていた。

 

マリオの話を否定できる知識を

もちろん2人は持っていない。

 

「私は猟師をしていてな、仲間と共に山に行くんだが」

「どれだけ用心していても、たまに1人行方不明になるんだ」

マリオは真剣な眼差しで訴えかけてくる。

 

「ある日、仕事終わりに仲間の1人が獣の様な人間を見たと言っていたんだ」

「もちろんその日も1人行方不明になっている」

「最初は熊にでも襲われたんだろうと思っていたんだが」

「にしても人が消え過ぎている・・・」

 

「猟師仲間と話し合った結果、我々の行動が誰かに監視されており」

「意図的に1人殺害されているという結論に至った」

「そして、その獣の様な人間もこの件に関与していると・・・」

マリオの声は震えていた。

 

しかし、その件とウルフの何の関係があるのだろう?

その問いをする前にマリオは再び口を開いた。

 

「ウルフ、奴からは血と臓物の臭いがし過ぎている・・・」マリオ

 

確かにウルフの臭いは強烈だ。

 

「これは私の感だが、奴が孤児を募っているのは」

「優秀な者を部下として厳選するためであり」

「使えないものは奴の食料となる」

「もしそれが事実であれば、ウルフは人間ではない」マリオ

 

2人には思い当たる節があった。

子供たちもたまにいなくなることがある・・・

 

「トモタケ、マーカス我々に力を貸してほしい」

「そうすれば、君たちを助けてあげられる」

 

2人の気持ちは不思議にも決まっていた。

そこにはウルフに対しての恐怖や疑念もあり、

マリオに対しての信頼が高まっていたからでもある。

 

マリオの申し出に対し、2人は静かにうなずいた。

 

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