第1話「家畜として生まれてきた男」
「夜も更けてまいりました」
肌寒い夜風に身をさらしながら、声を震わせトモタケ達は星を見上げていた。
「そんなことを言って、感傷に浸っている場合では無いッ!」
そういうとマーカスは、走り出し一気に他人ん家の敷地内に侵入する。
トモタケは、今まさに家畜泥棒仲間のマーカスと共に家畜小屋に忍び込もうとしていた。
トモタケは、貧民街で売春婦の母の元に生まれ、そして見放され、
ヤクザ崩れのウルフに育てられた。
ウルフにとって、身寄りのない子供は商売道具以外の何物でもない。
子供たちの利用法はさまざまだが、
トモタケとマーカスは他の者たちよりも年長の16才であり、
かなりヤバい仕事も任されるようになった。
もちろんしくじれば命の保証はない・・・。
トモタケもマーカスに続き、敷地に侵入する。
約100坪ほどの敷地には家屋があり、その裏は庭のようになっていて家畜小屋もそこにあった。
2人は庭の隅っこにある茂みに身を潜め2人は震えていた。
「寒い・・・この状況では本来の基礎能力の10分の1の能力しか発揮できないだろう・・・」
マーカスはそう言って震える。
「本当にやるしかないんですよね」
トモタケも震えた。
「マリオさん、寝てると良いですが」
トモタケはそういうと茂みを飛び出そうとした。
「待て」
マーカスは茂みの近くの大きな池を指さす。
池には鯉が8匹ほど泳いでおり、池の真ん中には立派な石橋がかかっている。
「鯉がいるじゃねえか」
マーカスはおもむろに池に手を突っ込み、鯉を瞬時に捕らえた。
「腹減ってねえか?」
そう言うとマーカスは懐から片手鍋を取り出した。
「確かに」
マーカスは薪を取ってくるようにとトモタケに指示すると、
新聞紙で火を付け、慣れた手つきで鯉こくの支度を始めた。
「たいしたものですねえ」
トモタケはそう言うと完成した鯉こくを器に盛る。
「頂こうぜ」
2人は同時に鯉こくを頬張る。
「あったまりますねえ」
トモタケはそう言って汁をすする。
「もうどうでもよくなってきたなあ」
お腹が満たされて眠くなったのか、マーカスは空を見上げて微笑む。
「ははははは・・・」
トモタケは愛想笑いをした。
焚火の光が2人を包み込んでいた・・・
2時間が経過した。
「そこで何をやっている・・・!」
2人は飛び起き臨戦態勢に入る。
池の向こうに立っていたのは猟銃を携えた初老の男だった。
家主のマリオだ。
「うッ・・・」
言い逃れはできない。
「ダッ!」
2人の逃げる間もなく、マリオは池の石橋を渡り突進してくる。
「逃げろッ!」
マーカスは叫ぶとトモタケを掴み押しながら駆け出した!
「逃げられんぞ!」
年齢からは想像できない速度でマリオは2人の後を追う。
「うッ・・・」
マーカスの声と共にドサッという効果音が、トモタケの後方から聞こえる。
「まさか・・・」
トモタケが振り向くと、そこには転んだマーカスの姿が。
歩み寄ろうとするトモタケに
「来るなッ!」
と逃走を促すマーカス。
「微笑ましい友情だな」
マリオが猟銃を向けながら静かににじり寄ってくる。
「私は・・・」
トモタケは立ち止まり震えていた・・・
「お前たちはウルフの家畜だ」
マリオは狂気に満ちた笑みを浮かべている。
冷たい風がトモタケの体に突き刺さる。
マーカス・・・
彼を置いては行けない・・・