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第5話「スノウリィ・マウンテン・フラッグス」

トモタケの拳は神聖な光を纏い、

 

一閃!!!

 

しかし、とっさに部下の1人がジャッカルをかばう。

 

「ウワアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

部下が白い光に包まれながら爆散する。

 

「くッ・・・一旦引くしかないようだな・・・」

ジャッカル達は人狼特有のスピードで逃げ出した。

 

「ふう・・・」

トモタケとマーカスは、ほっと胸をなでおろす。

 

「しかし、人狼側にこちらの手の内を見せすぎている・・・」

「早急に白銀の剣を手に入れないとまずいな・・・」

マーカスはそう言うと、2人は急いで雪山に向かった。

 

雪山に差し掛かると冷たい風が2人を襲う。

 

「寒い・・・」

トモタケは震えていた。

 

もっと防寒準備をしっかりしてくるべきだったと2人は後悔するが、

それでも2人は人狼に手の内を晒した手前、足を止める事はできない。

 

「あれは・・・!」

マーカスが指さす方向を見ると、そこには防寒服を着た男が立っていた。

 

「私は味方です、御2人の防寒服を用意しました」

「私達が手伝えるのはここまでです、ご健闘をお祈り申し上げます」

男は2人に防寒服を手渡すと吹雪の中に消えた。

 

山頂に近づくたび雪の量は増し、2人の足に絡みつく。

寒さと積雪量が2人の体力を奪っていく・・・。

 

しかし、順調に歩みを進めていくと山頂が見えてきた。

だが、2人の目の前に約45°の急斜面が待ち受けている。

 

「迂回しましょう」トモタケ

 

「ゴゴゴゴゴゴ」

突然、前方の急斜面にひびが入り、

雪の層が雪崩となって2人を飲み込もうとする。

 

「走れ!あの林まで!」

マーカスは左にある林を指さすと2人は全力疾走する。

 

「わああああああああああああ」

 

「ドーン」

雪の波が全てを押し流していく・・・

 

しかし、2人はなんとか林に辿り着き難を逃れた。

まっすぐ逃げていたら飲み込まれていただろう・・・

 

「もしかしたら、これは白銀の剣を人狼達から守るために、

計算された彼らのトラップかもしれませんね」

トモタケは何の根拠もないことを口にするのだった。

 

2人は斜面を迂回すると、いよいよ白銀の剣が見える場所まで到達する。その距離約100メートル。

 

「あれは!まさか!」

「神々しい光の中に刃が、そびえ立っている!」

様に見えた。

 

ここからは一本道、幅約4メートル。

落ちればただでは済まないが、慎重に進めば問題ない。

 

「そこまでだ」

2人が後方を振り向くと物凄い速度で2人の人狼が走ってくる。

おそらく、ジャッカルとその部下だ。

 

「まずい!」

トモタケとマーカスが走り出すが、人狼達はあっという間に距離を縮めてくる。

 

「仕方ねえッ!」

マーカスは人狼達の前に立ちはだかる。

 

「マーカスッ!」

 

「白銀の柄を持っているのはお前だ」

マーカスは人狼1人に飛びかかる。

 

しかし、マーカスの腹部は簡単に引き裂かれた・・・

 

が!

 

「何ッ!」

人狼1人は驚きの声を上げる。

マーカスは最後の力を振り絞り、人狼1人を抱きながら崖を転げ落ちていく。

 

「なんて餓鬼だ・・・」

残った人狼はそうつぶやくと白銀の剣に向かって走り始めた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

トモタケは雄叫びを上げ、がむしゃらに走り始めた。

 

白銀の剣まで約50メートルの所までくると人狼はトモタケに追いつき、

まるでビーチ・フラッグスの様に雪に刺さった白銀の剣に向かって、2人は並走する。

 

トモタケは追い抜かされる前に、

白銀の柄を握った右の拳を人狼目掛けて解き放つ。

 

しかし、人狼はその速度を活かし、その拳を簡単に回避した。

 

「あの刃をこの絶壁から落としてしまえば、貴様にそれを探す気力は残っていないだろう!」

人狼はあっという間に、白銀の剣が手に届く距離にまで移動した。

 

そして、人狼はその白銀の剣に向かって手を広げた!

 

「熱ッ・・・!」

刹那、人狼の背中に熱された金属の様な物が押し当てられたような気がした。

 

「熱いようッ!」

人狼の背中に触れた白銀の柄は爆ぜ、

すごい力で人狼を進行方向に押し出した。

 

「サク・・・」

すると人狼の顔に、雪に刺さっていた白銀の剣がめり込んでいき、

人狼正中線状に真っ二つにした。

 

「スパフォオオオオオン・・・」

2つになった人狼の体は空中で燃え盛り、灰になって消し飛んだ。

 

トモタケは人狼が白銀の剣へ手を伸ばす前に、

人狼目掛けて白銀の柄を投げていたのだ。

 

「終わったのか・・・」

トモタケは白銀の柄と刃の元に歩みを進め、

それらを拾い上げた。

 

「私にとって多くの命が失われた・・・」

 

「でも、これがベストだったんだ・・・」

 

「世界のために私達ができたのは・・・」

トモタケはそうつぶやくと、雪山を下っていった・・・。

 

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第4話「白銀の柄」

倉庫での惨劇から生き延びたトモタケとマーカスは

なんとかマリオ邸に辿り着いた。

 

「幸い、誰にも見られることなく帰ってこれたな」

マーカスは玄関の扉を閉め、ホッとしたように膝から崩れ落ちる。

 

「マリアちゃんになんと言えば・・・」

トモタケは震えた。

 

「・・・!?」

 

家の雰囲気がおかしい・・・!?

人の気配がする・・・

 

すると神々しい衣装を身にまとった男が廊下の奥から静かに現れた。

「マリオさんの娘は安全な場所に避難させました」

その男は落ち着いた態度で語りかけてくる。

 

「誰だ?てめえ?」

マーカスは驚きつつも、強気の姿勢で対応する。

 

「あなた達のこと、というよりもウルフを監視していた者です」

はっとした表情の2人を気にも留めず監視人は話を続ける。

 

「ウルフとの大立ち回り、御見逸れしました」

「しかし、このままでは彼の兄から報復を受けるでしょう」

「御2人は刃狼族という組織をご存知ですかな?」

 

「いえ・・・」

トモタケは監視人の話に圧倒されつつも、なんとか返答する。

 

「ウルフはヤクザ崩れですが、その兄は刃狼族の首領なのです」

どうやら刃狼族というのは、ヤクザ組織のことの様だ。

 

「刃狼族は狼の力を使い勢力を拡大していきました」

「刃狼族のメンバーは至る所に潜んでいます、もちろん街の衛兵の中にも」監視人

 

「さっきから言ってるがあんたは何者なんだよ?」

マーカスは苛立ちながら聞く。

 

「我々は刃狼族に対抗するための組織です」

「御2人には、何か特別な力がお有りのようですね」

「我々はこれを機に刃狼族を壊滅させようと思っています」

「しかし、我々の組織は狼の力を弱めるのに精いっぱいなのです」監視人

 

「興味深い話ですね」

トモタケは無理やり捻り出した感想を言う。

 

「あなた達には白銀の剣を探してほしいのです」監視人

 

「いやちょっと待ってくれ、その剣って何なんだよ?」

マーカスは戸惑いつつも、とりあえず質問した。

 

人狼は太古から存在しています」

「もし人狼がそのまま繁栄していれば、

人間はとっくに絶滅しているか家畜にされているでしょう」

「しかし、神は人間に力を与えました」

「その1つが、白銀の剣なのです」監視人

 

「場所の目星はついています」

「あなた達に拒否権はありません、断れば人狼達から報復を受けるのですから」

監視人の言葉を疑う余地はなかった。

 

なぜなら、2人は外の世界の事を何も知らないのだから・・・

 

「じゃあ、行ってみるか」

マーカスがそういうと

「待ってください」

監視人は2人を引き留める。

 

すると監視人は自分の懐から白く輝いた柄のような物を取り出した。

 

「これは白銀の剣の柄です」

「きっとあなた達の旅の助けになるでしょう」

監視人はそう言ってトモタケに白銀の柄を握らせる。

 

「マリアちゃんを頼みます」

トモタケは決意の感じられる声で別れの言葉を告げるのだった。

 

深夜

 

2人は白銀の剣(刃)があると思われる、雪山付近に辿り着いた。

 

「このまま、雪山を上るのは危険だ」

「夜が明けるまで、どこかで眠ろう」

マーカスはトモタケに提案する。

 

トモタケもその提案を受け入れ、休める場所を探した。

 

やがて、2人は公園に辿り着く。

 

「この時期に公園で野宿は危険すぎる」マーカス

 

2人はしばらく公園を歩いていると、

暗闇から誰かが走ってくる。

 

「ダッダッダッダッ」

「すいません、私は組織の者です」

暗闇から何者かが話しかけてくる。

 

「組織って、どっちの!?」2人

 

「すいません、味方です」

「宿を用意したので使ってください」

「それとこれを・・・」

暗闇から何者かが封筒を渡してくる。

 

中には日本円で15万円ほどの紙幣が入っていた。

トモタケ達は礼を言うと宿に向かった。

 

予約されていた宿は少々ボロボロだが、

特に罠などもなく、2人ともグッスリ眠れた。

 

昼近い朝

 

宿の女将さんに貰ったおにぎりを持って、

雪山の登山口に向かう2人。

 

何もない道がしばらく続いていたが、

しばらく歩くとヤクザ風の黒いスーツの男が3人たむろしている。

 

「ちょっと通りますよ」

トモタケは通りますのジェスチャーをしながら前を通る。

 

「待て」

「トモタケとマーカスだな?」

髪を後ろになで上げている代表らしき男が話しかけてくる。

 

「なんでお前ら俺達の居場所知ってるんだよ」

敵だと察したようにキレるマーカス

 

「ウルフが死んだという事は、我々の存在が知られているという事」

「ならば、白銀の剣が人間の手に渡るのを阻止しなければならない」

3人の代表はゆっくりこちらに右手を伸ばす。

 

「お前、どこかで見た事あるなと思ったが、ウルフの兄貴か?」

マーカスは後ずさりながら質問する。

 

「フフフ・・・

あいつもこんな餓鬼どもにやられるとは思ってなかっただろうに・・・」

「冥土の土産に教えてやろう、俺の名はジャッカル

ジャッカルは右手を伸ばしたまま、にじり寄ってくる。

 

「手を伸ばしてくるのやめろ」

マーカスは憤慨して物申す。

 

やがてジャッカルの右手の爪は伸び、短剣の様に鋭く尖ってゆく。

 

そして、逃げる間もなくトモタケの胸にジャッカルの爪が突き刺さった。

 

「トモタケッ!」マーカス

 

胸に侵入していくジャッカルの右手が「ジューゥッ」っと音をたて、

それと同時に肉の焦げる臭いが辺りに充満する。

 

「あれ?痛くない」トモタケ

 

「グワッ!」

ジャッカルは太い声で叫ぶと右手を引っ込める。

 

ジャッカルの鋭かった爪は焦げて崩れ落ち、指は焼けただれている。

 

「首領、どうしたんですッ!?」

ヤクザ達は驚いてジャッカルに駆け寄る。

 

トモタケの胸ポケットが白く輝きだした。

 

「なるほど、こんな効果があるんですね」

トモタケは察したように白銀の柄を取り出した。

 

「馬鹿なッ!?それは紛れもなく白銀の剣!」

「なぜ貴様なんかがそれを持っている!?」ジャッカル

 

トモタケは白銀の柄を握りしめ、ジャッカルを目掛けて拳を構えた。

 

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第3話「人狼嵌め」

翌日の朝方

 

トモタケとマーカスは、

マリオの所属する狩猟仲間の会議に参加。

場所はマリオの家、

マリオを含め6人の猟師が集結した。

 

「この2人がウルフの子飼いたちだ」

「この街で起きている大半の盗みは

ウルフの指示によって行われていると白状している」

マリオは狩猟仲間達に伝えた。

 

「なるほど、ではその餓鬼どもはどうする?」

角刈りの中年狩猟仲間のブレットが恐ろしい顔で2人を見た。

 

「ヒヤッ・・・!」

 

「彼らは盗みを強要されていたに過ぎない」

「情報提供をするという条件で許してやろう」

マリオはおそらく、この場で強い発言力を持っているのだろう。

それ以上2人の罪を咎める者はいなかった。

 

「2人はいつも、夕方頃に街はずれの倉庫で奴と会うらしい」

「今夜そこに向かう、こういう行動は早いことに越したことはないからなあ」

マリオは作戦をみんなに伝えた。

 

作戦は単純だった。

まず、トモタケとマーカスが倉庫に入り、ウルフの姿を確認でき次第、

猟銃を携えた狩猟仲間6人衆が倉庫に突入するというもの。

 

「あ、すまない、今夜は用事が・・・」

20代前半の狩猟仲間アンソニーは小声で言う。

 

「まったく、近ごろの若いもんは付き合いが悪いのお?」

長髪で髭を貯え、筋肉質で小柄な中年狩猟仲間グリコーゲンは茶化しながら言う。

 

確かにウルフはヤクザ崩れとはいえ、

もし殺すことになってしまえば何者かの報復も考えられる。

関わりたくないのも当然だろう。

 

「確かにこの作戦は、非常に危険なものになる・・・」

「無理強いはできない・・・」

「だが、このまま放っておけば、この街はもっと危険にさらされることになるだろう」

「勇気ある者はぜひとも参加してほしい!」

マリオはこの場にいる者を奮い立たせるように語った。

 

「私も怖いのでやめて置きます」

トモタケははっきりと自分の意見を言った。

 

「ええッ!?」全員

 

「お前・・・!」マーカス

 

「トモタケ、君たち2人が来ないと成功しないんだ」

「ぜひとも参加してほしい!」マリオ

 

「すいません」

トモタケの決意は揺るがなかった。

 

結局この作戦の参加者は、

マーカス、マリオ、ブレット、グリコーゲン、

パワー型の中年狩猟仲間アナグマ、寡黙な中年狩猟仲間ゲイツの6人で行う事となった。

 

夕方

 

6人はウルフが居ると思われる街はずれの倉庫に向かった。

 

狩猟仲間の5人は猟銃を手に、

マーカスも念のため刃渡り180mmの腰鉈をマリオから借りていた。

 

マーカスが倉庫のシャッターの前に立つと、

狩猟仲間がシャッターの両脇に待機する。

 

作戦開始だ。

 

「ガラガラガラッ」

マーカスがシャッターを開ける。

 

「おやおや、今までどうしていたんだマーカス?」

「心配したんだぞ」

倉庫のシャッターから約30メートル離れた位置に、

上半身裸の痩せた中年の男がパイプ椅子に座っていた。

ウルフである。

 

「ウルフさん、状況が変わった」

「あんたに聞きたいことがある」

マーカスは恐怖を抑え、毅然とした態度で発言する。

 

そして、狩猟仲間の5人が倉庫の中に躍り出た。

さらに一斉に猟銃をウルフに向けて構える。

 

「動くんじゃないッ!」

マリオが吠える。

 

「マリオさん、なぜこんな所に?」

ウルフは落ち着いた態度で問いかけた。

 

「マーカス、シャッターを閉めろ」

マリオの指示に従い、マーカスは素早くシャッターを下ろした。

 

「ありがとう、寒かったんだ」

ウルフは露出した上半身を掌で触りながら冗談を言う。

 

「この状況を見て慎重に発言しろ」

「貴様の正体は分かっている」

マリオは発砲する意思をウルフに伝え脅した。

 

「分かってしまったか・・・」

「あなた達がここに来たということは、

私が狩猟仲間を密かに食らっているという事実がバレてしまったということですね?」

ウルフは包み隠さず話すと、立ち上がった。

 

「座れ・・・!」

マリオの震えながら怒鳴った。

 

「今夜は刺激的な夜になる」

ウルフの体がみるみる筋肉質に変わっていくのと同時に、

銀色の体毛が全身を覆っていく。

 

「まさか、本当に・・・」

マーカスが思わず呟く。

 

「撃てッ・・・」

マリオが声を上げたのと同時に、

 

獣は高速で移動し、猟師仲間の5人をまとめて横一線に引き裂いた。

 

「ギャッ・・・」

マリオ達5人は断末魔の叫び上げると腹部からおびたたしい血を噴き出し、

地面に臓物をぶちまけて絶命した。

 

マーカスが高速で移動した物体の方に目を向けると、

銀色の毛に覆われた身長約2m程の犬の様な顔をした男が立っていた。

まるでの姿をしただった。

 

「シュワッ」

マーカスが叫ぶと

 

「ぐわわッ!」

腰鉈が人狼の左肩に食い込んでいた。

 

どうやらマーカスの咄嗟の判断で、

両手で持った腰鉈が降り下ろされたようだ。

 

「くッ・・・この餓鬼がッ!」

「生かしてやった恩を忘れたか!」

人狼は食い込んだ腰鉈を右手で掴む。

 

まるで腰鉈のダメージを感じていない様子だ。

 

「くッ・・・」

マーカスは絶望しながらも、人狼を睨み付け威嚇する。

 

圧倒的な力で腰鉈が押し戻されていく。

 

!!!!?

 

人狼の後方に謎の人影がマーカスの眼に映った。

 

「何ッ!?」

人狼も何かの気配を感じ、後ろを振り向こうとした瞬間・・・

 

その影の突き出した包丁が、振り向こうとした人狼の右脇腹に突き刺さり、

倒れこむ勢いで包丁は人狼の体に深く入っていく。

 

「ドサッ!」

影の正体はトモタケだった。

トモタケが包丁を捻ると人狼は断末魔の叫びを上げ、やがて絶命した。

 

「お前がこの作戦を急に断るなんておかしいと思っていたんだが」

「あらかじめ倉庫に隠れて様子を伺っていたんだな」

マーカスは震えながら言う。

 

「何が起こるか分からないなら保険は必要でしょう」

「しかし、マリオさん達は救えませんでした・・・」

トモタケは悲しみと恐怖に震えていた。

 

「とりあえず、マリオさんの家に帰ろう」

「ウルフの仲間が来る前に・・・」マーカス

 

2人はむせ返るような血の臭いのする倉庫を後に

マリオ邸に向かった・・・。

 

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第2話「恐ろしき黒い噂」

「お前たちはウルフの家畜だ」

マリオは猟銃を持ち、2人ににじり寄ってくる。

 

「私は・・・」

トモタケは冷たい空気に体を震わせた。

 

「どうした?」

マリオはトモタケに問う。

 

トモタケはただただ震えている。

 

「寒いか?」

マリオはそう言うと猟銃の先端を持ち大きく振りかぶる、

次の瞬間、猟銃のグリップの部分がトモタケの目の前まで伸びてきた。

 

「ガン!」

衝撃と共にトモタケの目の前が真っ暗になる・・・

 

 

1時間後・・・

 

トモタケが目を覚ますと暖かい室内の椅子に座っていた。

そしてマリオが四角い机を挟んで目の前の椅子に座っている。

 

「暖かい・・・」

トモタケはそうつぶやくと目の前を見渡す。

 

マリオどころではない。

左にはマーカス、右にはマリオの娘の幼いマリアが座っているではないか。

 

「どうやら・・・」

マリオが口を開く。

 

「お前たちには人の心があるみたいだな」

マリオがそういうとトモタケの目の前を指さす。

 

「お前の分じゃ」

目の前には熱々のスープカレーが置かれている。

 

「なぜです?」

トモタケはマリオのやさしさに疑問を持った。

 

「なぜだと?さっき殴ったお詫びだ」マリオ

 

「我々は貴方の敷地に無断で忍び込んだんですよ?」トモタケ

 

「正直者だな、気に入ったよ」

「お前達はウルフに強要されてやっただけだ」

「そうだろう?」マリオ

 

「・・・」

本心はそうだったが、ウルフは2人にとって育ての親でもある。

素直にウルフの名前を口にするのは躊躇われた。

 

「お前たちをウルフの家畜だと言ったのは比喩ではない」

「このままではいずれ、2人とも殺されるだろう」マリオ

 

!?

そんなはずはない。

仕事さえしっかりやっていれば、少なくともウルフは居場所をくれる。

 

「殺されるとはどういうことだッ!?」

マーカスは怒鳴り声をあげた。

 

「黒い噂がある」

「お前たちはこの世界の理を何も知らない」

「この世には人間を超えた怪物が存在していると・・・」マリオ

 

マリオの話は普通ではなかった。

2人はまるでおとぎ話を聞かされている気分だったが、

2人は外の世界の事をまるで知らない。

 

2人の今までの生活・・・

昼間はウルフの仲間らしき人物に監視されながら、

ぎゅうぎゅう詰めのたこ部屋で他の子供たちと過ごしており、

 

夜になるとウルフの元に連れていかれ、

ウルフの指示に従い仕事をするというものだった。

 

逃げることもできたが、

何の知識もない2人では生きてはいけないだろうと思っていた。

 

マリオの話を否定できる知識を

もちろん2人は持っていない。

 

「私は猟師をしていてな、仲間と共に山に行くんだが」

「どれだけ用心していても、たまに1人行方不明になるんだ」

マリオは真剣な眼差しで訴えかけてくる。

 

「ある日、仕事終わりに仲間の1人が獣の様な人間を見たと言っていたんだ」

「もちろんその日も1人行方不明になっている」

「最初は熊にでも襲われたんだろうと思っていたんだが」

「にしても人が消え過ぎている・・・」

 

「猟師仲間と話し合った結果、我々の行動が誰かに監視されており」

「意図的に1人殺害されているという結論に至った」

「そして、その獣の様な人間もこの件に関与していると・・・」

マリオの声は震えていた。

 

しかし、その件とウルフの何の関係があるのだろう?

その問いをする前にマリオは再び口を開いた。

 

「ウルフ、奴からは血と臓物の臭いがし過ぎている・・・」マリオ

 

確かにウルフの臭いは強烈だ。

 

「これは私の感だが、奴が孤児を募っているのは」

「優秀な者を部下として厳選するためであり」

「使えないものは奴の食料となる」

「もしそれが事実であれば、ウルフは人間ではない」マリオ

 

2人には思い当たる節があった。

子供たちもたまにいなくなることがある・・・

 

「トモタケ、マーカス我々に力を貸してほしい」

「そうすれば、君たちを助けてあげられる」

 

2人の気持ちは不思議にも決まっていた。

そこにはウルフに対しての恐怖や疑念もあり、

マリオに対しての信頼が高まっていたからでもある。

 

マリオの申し出に対し、2人は静かにうなずいた。

 

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第1話「家畜として生まれてきた男」

「夜も更けてまいりました」

肌寒い夜風に身をさらしながら、声を震わせトモタケ達は星を見上げていた。

 

「そんなことを言って、感傷に浸っている場合では無いッ!」

そういうとマーカスは、走り出し一気に他人ん家の敷地内に侵入する。

トモタケは、今まさに家畜泥棒仲間のマーカスと共に家畜小屋に忍び込もうとしていた。

 

 

トモタケは、貧民街で売春婦の母の元に生まれ、そして見放され、

ヤクザ崩れのウルフに育てられた。

ウルフにとって、身寄りのない子供は商売道具以外の何物でもない。

子供たちの利用法はさまざまだが、

トモタケとマーカスは他の者たちよりも年長の16才であり、

かなりヤバい仕事も任されるようになった。

もちろんしくじれば命の保証はない・・・。

 

 

トモタケもマーカスに続き、敷地に侵入する。

約100坪ほどの敷地には家屋があり、その裏は庭のようになっていて家畜小屋もそこにあった。

2人は庭の隅っこにある茂みに身を潜め2人は震えていた。

 

「寒い・・・この状況では本来の基礎能力の10分の1の能力しか発揮できないだろう・・・」

マーカスはそう言って震える。

 

「本当にやるしかないんですよね」

トモタケも震えた。

 

マリオさん、寝てると良いですが」

トモタケはそういうと茂みを飛び出そうとした。

 

「待て」

マーカスは茂みの近くの大きな池を指さす。

池には鯉が8匹ほど泳いでおり、池の真ん中には立派な石橋がかかっている。

 

「鯉がいるじゃねえか」

マーカスはおもむろに池に手を突っ込み、鯉を瞬時に捕らえた。

 

「腹減ってねえか?」

そう言うとマーカスは懐から片手鍋を取り出した。

 

「確かに」

 

マーカスは薪を取ってくるようにとトモタケに指示すると、

新聞紙で火を付け、慣れた手つきで鯉こくの支度を始めた。

 

「たいしたものですねえ」

トモタケはそう言うと完成した鯉こくを器に盛る。

 

「頂こうぜ」

2人は同時に鯉こくを頬張る。

 

「あったまりますねえ」

トモタケはそう言って汁をすする。

 

「もうどうでもよくなってきたなあ」

お腹が満たされて眠くなったのか、マーカスは空を見上げて微笑む。

 

「ははははは・・・」

トモタケは愛想笑いをした。

 

焚火の光が2人を包み込んでいた・・・

 

 

2時間が経過した。

 

「そこで何をやっている・・・!」

 

2人は飛び起き臨戦態勢に入る。

 

池の向こうに立っていたのは猟銃を携えた初老の男だった。

家主のマリオだ。

 

 

「うッ・・・」

言い逃れはできない。

 

「ダッ!」

2人の逃げる間もなく、マリオは池の石橋を渡り突進してくる。

 

「逃げろッ!」

マーカスは叫ぶとトモタケを掴み押しながら駆け出した!

 

「逃げられんぞ!」

年齢からは想像できない速度でマリオは2人の後を追う。

 

「うッ・・・」

マーカスの声と共にドサッという効果音が、トモタケの後方から聞こえる。

 

「まさか・・・」

トモタケが振り向くと、そこには転んだマーカスの姿が。

 

歩み寄ろうとするトモタケに

「来るなッ!」

と逃走を促すマーカス。

 

「微笑ましい友情だな」

マリオが猟銃を向けながら静かににじり寄ってくる。

 

「私は・・・」

トモタケは立ち止まり震えていた・・・

 

「お前たちはウルフの家畜だ」

マリオは狂気に満ちた笑みを浮かべている。

 

冷たい風がトモタケの体に突き刺さる。

 

マーカス・・・

 

彼を置いては行けない・・・

 

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